本のムシはやがて蝶になる

感性を磨き続けたいアラフィフ主婦の読書記録。好きなジャンルはアート、音楽、メンタル、生き方など。ちょっぴり繊細なHSP気質。

【読書記録】『何もかも憂鬱な夜に』中村文則 著

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養護施設で育った孤児の刑務官の“僕“が主人公。
時々犯罪性を帯びた行動をし、いつか何かやってしまうのではないかという混沌を抱きながら生きている。

刑務官として
どこか自分に似た“山井“という若き犯罪者と接する中で、自殺した友人の記憶や大切な恩師・養護施設の『施設長』とのやりとりを回想する。

施設長の存在で主人公は破滅の一歩手前で押し留まることができたが、犯罪者とのスレスレの精神状態であったこともある。
思春期の頃のまどろこしい、自分自身への苛立ち、多感で複雑な心境が手に取るようにわかる。

主人公と犯罪者との会話シーンなどから、犯罪者になりゆる人間の思想や犯罪を犯してしまった人間の衝動をこの小説で表現している。

人間の暗部に向き合う、とても重くて暗い内容でしたが、小説の中の様々な場面で雨が降っていたりと、どこかに『水』が描かれていて『命』が感じられた。

そして、主人公の“僕“も彼の恩師も芸術を鑑賞することの必要性を語っている。

“どのような人間でも、芸術にふれる権利はあると、主任が言ってくれた。芸術作品は、それがどんな極悪人であろうと、全ての人間に対してひらかれている“

ベートーヴェン、バッハ、シェークスピアカフカ安部公房ビル・エヴァンス

“お前は、まだ何も知らない。この世界に、どれだけ素晴らしいものがあるのかを。“

“自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ“

“考えることで、人間はどのようにでもなることができる。世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる“

読み始めはなんて暗い話なんだ…と
思ったけど、読後は心の中の押さえつけられていたものが流された感じがしてスッキリした。
不器用でもいい。地道に生きていけばいいと
思えた。